もう一度だけでも逢えるなら
「僕は、空や雲を眺めるのが好きなんです」
 水樹さんは穏やかな表情で語ってくれた。

 視線は上を向いている。気持ち良さそうな顔をしている。その視線の先には、ソフトクリームのような真っ白い雲が浮かんでいる。とても美味しそうな雲。食べ応えがありそうな巨大な入道雲。

 私は、あまり空は見上げない。晴れているか、曇っているか、雨が降ってこないか、確認するだけ。

「あの雲は、何の形に見えますか?」
 水樹さんが私に質問してくれた。とても穏やかな表情で。

 なんだかとっても機嫌が良さそう。

「どの雲ですか?」

「あの大きな雲です」
 水樹さんは空に向かって指を指した。

「ソフトクリームに見えます」

「ソフトクリームですか」

「はい。ソフトクリームです」

「雲を食べてみたいと思ったことはありますか?」
 水樹さんがまた私に質問してくれた。

 もっといっぱい質問して。私は心の中で強くつぶやく。

「ありません」
 私は正直に答えた。雲を食べてみたいと思ったことは、一度もないから。

「雲は、どんな味がするんでしょうね」
 空を見上げたままの水樹さんの表情は、とても明るい。

「甘かったらいいですね」

「そうですね」

 これぞまさしく、のんびりまったり。

 暑さは全く気にならない。遠くの森から聞こえてくる蝉の鳴き声が心地よく聞こえる。

 二人だけの時間。二人だけの空間。

 耳掻きを持ってくればよかったと、つくづく思う。
 
 ダッシュで家に帰って、耳掻きを持ってこようか。私は水樹さんの横顔を見つめながら考える。
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