もう一度だけでも逢えるなら
「お一人でピクニックですか?」
 二匹の犬を連れたおばさんが私に質問してきた。

 ???

 隣に彼がいるでしょ。かっこいい彼がいるでしょ。あなたは何を言っているんですか。私は心の中で強くつぶやく。

「お一人様が流行っていますからね」
 訳のわからないことを言っているおばさんは、二匹の犬を連れて去っていった。

「変なおばさんですね」

 水樹さんの表情は、暗くなっている。ついさっきまで、明るい表情で空を見上げていたのに、暗い表情で下を向いている。

 きっと、あのおばさんのせい。

 とにかく明るく振舞って、沈んだ空気を変えなければならない。

「コーヒー牛乳を飲みましょうか」
 まなちゃんを膝から降ろして立ち上がり、クーラーボックスからコーヒー牛乳を取り出した。とてもよく冷えている。

 水樹さんはずっと暗い表情のまま。今日も喉が渇いていないのか、冷たいコーヒー牛乳を飲もうとしない。

「あの……」
 小さな声で言った水樹さんは顔を上げた。

 何か言いたそうな顔をしている。

「あのおばさんは、別に変な人ではないんです」
 表情は暗いままだし、声も暗い。

「どういうことですか?」

「何て言ったらいいのか……。変なのは、僕なんです」
 沈んだ声で言った水樹さんは、また下を向いてしまった。

 確かに、水樹さんは変わった人だと思う。真夏なのに、冬用のジャケットを着ているし、全く汗を掻かないし、土足で私の家に上がったし。

 でも、それ以外はいたって普通。

 暑い中、私と一緒にピクニックに来てくれた水樹さんに、変わった人ですね。なんて言えない。

「水樹さんは、変な人ではありませんよ」

「そう言ってもらえて、とても嬉しいんですが……。せっかく用意してくれたのに、飲まなくてすみません」
 水樹さんの顔色は悪くなっている。膝に乗せた拳を握り締めている。

 何か言えない事情があるに違いない。私はそう思い、余計な詮索はしないことにした。

「いつか話しますので」

「はい」

 顔を上げた水樹さんの表情は、真剣そのもの。いつか話してくれると思う。それまで私は待つ。

 喉が渇いているけど、私だけ飲むわけにはいかないので、コーヒー牛乳をクーラーボックスに仕舞って、水樹さんの隣に座り直した。
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