もう一度だけでも逢えるなら
「紗優さんのことは好きですよ。顔も人柄もタイプです」

 それなら私と付き合ってよ! 

「僕は、普通の交際ができないんです」

 なにそれ? 訳がわからないよ。

「普通の交際ができないとは、どういうことなんですか?」
 さっそく質問してみた。

「一緒に食事をしたり、手を繋いで歩いたり、普通の人がしていることができないということです」

「それって、どういうことなんですか?」

「先日のおばさんのことを覚えていますか?」

「覚えていますよ。私に変なことを言ったおばさんですよね」

「あのおばさんは、僕の姿が見えないんです。あのおじさんも、あの男の子も、あの女の子も……」
 原っぱにいる人に指を指した水樹の表情は、真剣な表情から暗い表情に。

「私は、水樹の姿が見えますよ。はっきりと見えますよ」

「紗優さんは、特殊な人だと思うんです」

「私はいたって平凡なOLですよ」

「紗優さんだけが、僕の姿が見える。何か理由があるはずです。思い当たる節はありませんか?」

「えっと……」

 どうして私だけが……。

 いくら考えても、思い当たる節はない。

 メガネを外しても、水樹の姿は見える。確かに見える。

 幸運の赤メガネは、メガネストアで買ったメガネ。ごく普通のメガネ。値段は、税別で七千八百円だった。

 魔法のメガネでも何でもない。
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