もう一度だけでも逢えるなら
 水樹は、今から三年半前の冬、バイク事故で亡くなった。その当時の年齢は、三十四歳。職業は、旋盤工。下町の工場勤め。妻子なし。

 仕事帰り、交差点内で信号無視のトラックに横から衝突されるという不運な交通事故。救急車に乗るまでは意識があったという。

 その時の服装が、モスグリーンのジャケットとネイビーのジーンズ。靴は茶色のブーツ。

 しずく第二公園のベンチで目を覚まし、三分咲きの桜が見えたという。亡くなってから、この町で目を覚ますまでの間の記憶はないとのこと。

 自分がどうなってしまったのか、何もわからないまま、この町を彷徨い、狭山さんと出会った。

 その時、君は天使に生まれ変わったんだよ。天使に選ばれたんだよ。と狭山さんに言われて、具体的な説明を受けた。

 初めは信じられなかった。狭山さんの不思議な能力を見て、信じるようになったという。

 水樹は自分の死を受け入れて、天使になる決意をした。

 狭山さんの指導の元、一週間ほど、天使になるための訓練を受けて、水樹は不思議な能力が使えるようになった。(狭山さんより二週間ほど早い)

 実践に実践を積み重ね、水樹は一人前の天使だと認められた。

 水樹にバトンを繋いだ狭山さんは任期を終えて、姿を消してしまったという。

 その日から、水樹は天使としての日々が始まった。この町の天使として。
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