もう一度だけでも逢えるなら
 誰とも話せず、自分の姿が見える人には巡り合えず、水樹は孤独で地道な活動を続けた。人々が喜ぶ姿を糧に。

 同じ服装のまま、一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎ、今年の夏、道端で一万円札を拾った私を目撃した。

 私が一万円札を交番に届けるかどうか、水樹は私の行動を見守った。

 交番に行かず、駅の改札を潜った私を見て、水樹は判断した。あの人は、一万円札をネコババしたと。

 それで水樹は私にお願いした。ちゃんと交番に届けてください。

 その声を聞いて、私は一万円札を交番に届けようという気持ちになった。

 それが、天使の能力。人の気持ちを変える。良い方に変える。

 私は交番に届けに行った。落とし主のおばあさんに感謝された。

 とても良い気分になった。同時に罪悪感が込み上げてきた。

 それで、私はおばあさんのお供をした。また感謝された。

 すごく良い気分になった。遅刻をして、部長に説教されても、へっちゃらだった。
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