もう一度だけでも逢えるなら
 それまでの私は、あまり人に関心を示さなかった。

 関心を示すのは、私の身近な人や周りにいる人だけ。

 おばあちゃん、家族、友達、のんびり会のメンバー、会社の同僚、駅に向かって歩いている途中で、すれ違う人々。

 水樹はこの町に来て、三年以上。

 どこかで水樹の姿を目撃していたかもしれない。

 けれど、私は気づかなかった。あまり人に関心を示さないから。

 言うまでもなく、私が水樹と出会えたのは、私が一万円札をネコババしようとしたから。

 初めからちゃんと交番に届けていたら、水樹と出会えなかったかもしれない。

 夢の中のおばあちゃんが言っていたとおり、私は善人ではない。

 毎日、遅くまで残業している同僚を尻目に、自分の仕事を終わらせて、萌の仕事を手伝って、定時に帰る。残業するのは無能だから。と思って、残業している同僚を見下す。

 それが、今までの私。自己中心的な人間。

 水樹は、私に変われるチャンスを与えてくれた。

 夢の中のおばあちゃんに言ったように、私は善人になれるように頑張る。水樹のような善人になりたい。本当に純粋で素直な心を持つ、優しい人間になりたい。

 水樹と一緒にいれば、何かを学べると思う。多くのことを学べると思う。

 天使であっても、亡くなった人でも、手を繋げなくても、私は水樹が好き。一秒でも長く、水樹と一緒にいたい。

 けれど、しばらくの間は、水樹を異性としては見ない。天使として、一人の人間として接するようにする。



 天使の活動に同行させてください。水樹にお願いした。

 いいですよ。水樹は微笑みながら言ってくれた。
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