もう一度だけでも逢えるなら
 街の人たちの様子を見るために、とにかく歩き回るとのこと。歩くことも天使のお仕事の一つ。

 バテないように、しっかりと食べて飲んでください。水樹に言われた。

 私だけ食べるのは気が引けるけど、水樹に言われたとおり、バテないように、しっかりと食べて飲む。

 まだお昼ご飯を食べていないので、水樹と一緒に駅前のファミレスに入った。

 私はハンバーグランチを注文した。ドリンクは、冷たいレモンティー。

 向かいの席に座っている水樹は、注文したくても注文できない。

 食欲、睡眠欲、性欲、人間の三大欲。水樹はどの欲も満たせない。

「何も飲み食いできなくて、辛くないですか?」

「初めの頃は辛かったですよ。今はもう慣れました」

「そうですか。眠れないのも辛いですよね」

「辛いです。でも、もう慣れました」

「そうですか。エッチができなくて、欲求不満は溜まりませんか?」

「天使になってから、性欲はなくなりました」

「本当ですか? ピクニックの時、私の胸を見てたじゃないですか」

「いやあ、それは……」

 誤魔化そうとしているのか、水樹はなにくわない顔で口笛を吹き始めた。

 天使になっても男は男。私はちょっと嬉しく思った。
< 62 / 180 >

この作品をシェア

pagetop