もう一度だけでも逢えるなら
 その後も、水樹と一緒に街中を歩き回った。人々の様子を見ながら。

 この町も高齢化が進んでいるので、年配の人をよく見かける。

 暑い中、ウォーキングをしているおじいさん。楽しそうに世間話をしているおばあさんたち。

 元気なお年寄りが増えている反面、先日交番で出会ったリウマチのおばあさんのように、体の悪いお年寄り、孤独なお年寄りが増えている。

 詐欺に遭う高齢者も後を絶たない。年々、手の込んだ新手の詐欺が増えている。

 オレオレ詐欺や振り込め詐欺に引っかかり、数千万円も騙し取られたおじいさんやおばあさんがいる。そういったニュースをよく耳にする。

 私が子供だった頃、オレオレ詐欺や振り込め詐欺なんてものはなかった。高齢者からお金を騙し取る人はいたと思うけど。



 確か、九歳の時だったと思う。私のおばあちゃんと一緒に買い物に行った帰り、スーツ姿のおじさんが私に声を掛けてきた。

「重たそうな買い物袋を持ってるね」

「おばあちゃんが杖をついているので、あたしが持っているんです」

「偉いね。家は近いのかい?」

「あと四百メートルくらいです」

「家まで持てる?」

「ちょっと手が痛いです」

 そう言うと、スーツ姿のおじさんが、私の買い物袋を持ってくれた。家まで運んでくれた。

「ご親切にありがとう」
 おばあちゃんが嬉しそうな声で言った。

 私もお礼を言った。

「お礼をしたいので、家に寄っていかないかい?」
 おばあちゃんが明るい声で言った。

 私も家に寄ってください。と言った。

「仕事中ですので」
 スーツ姿のおじさんは、何事もなかったかのように歩いていった。

 親切で優しい人だと思った。

 ちょっとした出来事だったけど、今でも覚えている。
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