もう一度だけでも逢えるなら
「どんな気持ちで、あのおばあさんと話しましたか?」

「えっと……」

「自分のことも考えませんでしたか?」

「…………考えました」

「本当の優しさとは、何かわかりますか?」

「えっと……わかりません」

「本当の優しさとは、心の底から相手のことを思いやり、自分のことは一切考えず、純粋で素直な気持ちで行動することですよ。僕なりの考え方ですけどね」

「なるほど」

 私は……水樹に言われたとおり、自分のことも考えた。

 良い行いをすれば、純粋で素直だった頃の自分を取り戻せると思ったから。

 なので、おばあさんに声を掛けたのは、自分のためでもある。

 私がしたことは、ただの親切の押し売り。心の底から相手のことを思いやっていない。

 悪く言えば、自己満足。

 本当の優しさではないと思う。

 だから、相手に気持ちが伝わらなかったのかもしれない。

 私はそう自分で結論付けた。

「親切を受ける側も、いろんな人がいます。時には、断られることがあります。さっきのおばあさんは、警戒心の強い人なのかもしれません。これでめげずに、頑張ってくださいね」

「はい。頑張ります」
 私は思わず返事をしてしまった。

 返事をしたからには、頑張らなければならない。

 一日一膳。

 これでめげずに、一日に一回は良い行いをしようと思う。

 相手の気持ちをもっとよく考えながら。
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