もう一度だけでも逢えるなら
 水樹は、どんなに歩いても疲れない。歩きスマホをしている人やタバコのポイ捨てをした人に、やめるようにお願いして回っている。

 私は、二時間歩いただけでヘトヘト。おまけに足も痛い。

 水樹の後を追いかけるのに必死で、良い行いは何ひとつできていない。そんな自分を情けなく思う。

「今日は、ここまでにしておきましょうか」

「まだ大丈夫です」

「無理はいけませんよ。家に帰って休んでください」

「……わかりました。家に帰って休みます」

 明日から仕事。これ以上歩いたら、筋肉痛で会社に行けなくなってしまう。

 悔しくて情けないけど、今日はもう家に帰る。

「夜は、どうしているんですか?」

「心が元気な時は、夜回りをしています。心が疲れた時は、しずく第二公園のベンチに座って、星空を眺めています」

「雨の日は、どうしているんですか?」

「一日中、街中を歩き回っていますよ。他にやることがないので」

 私に出会うまでは、ずっと独り。本当に孤独だと思う。よく耐えてきたと思う。

 一日中、歩き回って、町の人たちのために活動する日々。私だったら、絶対に耐えられない。そんな孤独に耐えられるわけがない。

 実際に天使になってみないとわからないけど、たぶん、三日でやめると思う。
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