もう一度だけでも逢えるなら
 まなちゃんに朝ご飯を与えて、自分の朝ご飯を作り、テーブルを挟んで、水樹と向かい合って座った。

 一晩中、テレビを見ていたのか、水樹の目はちょっと充血している。

 おはよう、マイダーリン。何か面白い番組でもやってたの? 心の中でつぶやきながら、一人で新婚ごっこ。

 別に虚しいとは思わない。ちょっと恥ずかしいとは思うけど。

「住まわせてもらっているのに、掃除すらできなくて、すみません」

「そんなこと、別にどうだっていいんですよ。水樹も気を使わないでください」

「そう言ってもらえると、助かります」

 水樹の顔を見ているだけで、私は癒される。だから、何もしてくれなくてもいい。

「お帰りは何時頃になりますか?」
 新妻になった気分で、優しく微笑みながら。

 今夜のお夕食は何になさいますか? と聞けないのがちょっと残念。

「何事もなければ、零時過ぎ頃に帰ります」
 水樹は淡々と答えた。

「もっと早く帰ってきてくださいよ」
 ちょっと強い口調で。

「あまり帰りが遅くなると、紗優さんに迷惑を掛けてしまいますね」

「いやいや、そういう意味ではないんですよ」

 仮想新婚生活を楽しんでいるのは私だけ。ちょっと虚しくなってきた。

 こうなったらもう、無理やり新婚ごっこ。

 もう敬語は使わない。
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