もう一度だけでも逢えるなら
 始発から三駅目なので、いつもだいたい座れる。

 今朝も優先席が空いている。他の座席は埋まっている。

 座ろうと思えば座れる。

 今までは、何も考えないで優先席に座っていた。

 お年寄りが前に立った時は、寝たふりをしていた。

 この駅から会社の駅までは、二十八分。

 別に座らなくてもいい距離。

 それに、私はまだ三十一歳。

 身体も健康だし、足腰もしっかりしている。

 けれど、あえて優先席に座る。

 お年寄りが近くに来たら、席を譲る。

 そう決めて、空いている優先席に座った。三人座席の真ん中。

 いつもは寝ている。自分ではわからないけど、イビキを掻きながら寝ているかもしれない。

 今日から寝ない。電車内の人々の様子を観察する。

 右隣には、スーツ姿のおじさん。左隣には、大学生風のお兄さん。二人とも、スマホを操作している。

 向かいの優先席には、私より年下に見える女性と中年のおじさんが座っている。二人とも、スマホを見ている。
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