もう一度だけでも逢えるなら
 駅から会社までは、歩いて八分。

 通勤時間帯、真っ只中。

 どの人もすたすた歩いている。

 困っていそうな人は、どこにも見当たらない。

 八時五十五分、経理部のオフィスに到着。

 萌に、おはようの挨拶をして、自分のデスクにつく。

 九時三分、朝の朝礼開始。

 お盆休み前に、何か不手際でも起こしたのか、同僚の女性社員が部長に叱られている。

 ネチネチネチネチ。ガミガミガミガミ。みんなが見ている前で、必要以上の執拗な説教。

 説教を受けている杉下さんの目は涙目。今にも泣き出しそうな顔。

 まさに、パワハラ。

 心の底から、杉下さんのことを思いやり、勇気を出して、部長に立ち向かう。

「杉下さんは、毎日遅くまで残業しています。部長の知らないところで努力しています。そんなに怒らないでください」

「うるさい! お前は黙ってろ!」

「黙っていられません! 部長がしていることはパワハラですよ!」

「このくらいでパワハラになるか!」

 部長の神経を逆なでしてしまったのか、他の同僚社員にもとばっちり。

 次から次へと、とばっちり。萌までもがとばっちりを受ける羽目に。

 経理部のオフィスは、険悪なムード。

 余計なことをするなよ。とばっちりを受けた男性社員の目から、そんなことが感じられる。

 部長の説教は、十分以上も続いた。

 ようやく朝の朝礼は終わり、部長も他の社員もデスクについた。

 杉下さんは、泣きながら業務を開始。

「あのくらいで泣くやつがあるか! さっさと仕事しろ!」
 
 部長の怒鳴り声がオフィスに響き渡る。

 杉下さんは、号泣状態。泣きながら電話対応。

 私が余計なことをしたばかりに……。

 謝っても遅い。

 私はなんだか申し訳ない気持ちになった。
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