もう一度だけでも逢えるなら
 淡々と業務をこなし、気を取り直して、トイレへ。

 いちばん奥、私がいつも使用しているトイレ。

 誰か生理なのか、便座が汚れている。おりものの臭いがする。生理用のナプキンが床に落ちている。

 こんなことは滅多にない。というより、初めてのこと。

 トイレで用をしていたとき、急に電話で呼び出されたのか。慌てて出て行った感じが見受けられる。

 このままでは、次の人も不愉快な思いをしてしまう。

 ちょっと嫌だけど、トイレ清掃。

 綺麗に掃除すれば、一日一膳を達成。

 便器を流して、生理用のナプキンをサニタリーボックスへ。

 トイレットペーパーを湿らせて、便座を拭き拭きしていたところ、誰かトイレに入ってきた。

 たまに見かける掃除係のおばさん。まともに話したことはない。

「何をされているんですか?」

「便座が汚れていたので、掃除してました」

「あなたは、社員さんですよね?」

「はい。経理部の里崎です」

「あなたのお仕事は、トイレ掃除ではありません。私の仕事を奪わないでください」

「いや……そんなつもりでは……」

「早くそこから出てください」

「あ、はい……」

 結局、トイレ掃除は、掃除係のおばさんがした。

 一日一膳、達成ならず。
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