ピエリスの旋律


参道を歩く両親の後に私と兄が続く。
元日の昼間ということもあって、境内はかなりの人で混み合ってる。


「奏(そう)、栞、ちゃんと付いてきてるー?」

「なんとか」


母が心配そうに振り返って、私達二人の様子を伺う。
4歳上の兄が返事をしてくれた。

それにしても凄い人だ。
正月早々出てきたことを、少し後悔してしまった。こんなことなら落ち着く日まで待って初詣に来ればよかった。


「あ、ちょっと待って」


そんな気持ちで悶々と歩いていると、突然兄が立ち止まった。私もつられて足を止める。


「知り合い見つけた」

「え?」


そう言うと何やら人混みに向けて手を振る兄。
よく見ると、その中でこちらに手を振り返す、女の人?


「ちょっと行くわ。父さん達に言っといて」


兄は私をその場に残して、綺麗な女の人のところへと走っていってしまった。

え、なになに彼女?
めっちゃ美人じゃん。

家帰ったら聞いてやろうと二人の背中を見送って、さぁ両親に合流しようと本殿の方に体を向けた。までは良かったのだけど。


「え、まじ」


もうそこには、両親の姿はなかった。

慌てて母に電話を掛ける。出ない。
父にも電話を掛ける。出ない。

家を出て、たった15分で迷子になった。
もう高校生なのに。悲しい。

なんて新年の幕開けなんだ。


参道の真ん中でおろおろしていると、どんどんと歩いてくる人達にぶつかってしまう。
このまま、ここに居続けるのは非常に危険だ。身の安全という意味で。

でも、自分の判断で勝手に先に進むことも出来ないので、自販機が並ぶ参道横の休憩所に避難することにした。
人の波に逆らって横に逸れるのにも苦労する。

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