ピエリスの旋律


やっとの思いで人波から開放されて、開けた場所に出た。
ほっと息を吐く。

少し離れたところでは甘酒が振る舞われていて、そちらの休憩所の方が混んでいるように見える。
どうしたもんかとため息を零しながら、自販機で温かいミルクティーを買った。
ペットボトルを通して伝わる熱にホッとする。

喉を通るミルクティーの温かさを感じながら、両親にメッセージを送った。
今ミルクティー飲んでるよぉっていうのと、この後どうすればいい?っていう旨。

まぁ家は近所なので、合流できなくても帰ればいいだけの話なんだけど。
でもせっかく寒い中来たのだから、お参りだけは済ませて帰りたい。


そんなことを考えながら、ボーッと群衆を眺める。
周りにも私と同じ境遇なのか、ただ休憩しているだけなのか、人混みを見つめてじっとしている人は何人もいた。

んー、何とも正月っぽい。
迷子になったのに時間があるので慌てない、この心の余裕よ。
両親と合流することは果たして出来るのだろうか。

スマホの画面を覗き込んでも、返信は全くない。もちろん折り返しの電話もない。
きっと二人ともマナーモード設定なんだろうなぁ。


「萩原さん」


考えを巡らしていると背後から突然声がして、気を抜いていた私は思わず体びくつかせた。

誰か知り合いかと思って振り向くと、そこには尾瀬くんがにこにこしながら立っていて、私は驚いて目を丸くした。


「お、尾瀬くん」

「あけましておめでとう」

「あ。あけましておめでとう、ごぜいます…」


いやいや、びっくりした。
さらっと新年の挨拶しちゃったし、もれなく噛んだ。
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