ピエリスの旋律
尾瀬くんは紺色のPコートに黒いパンツといった装いで、首には温かそうな深緑のマフラーを巻いていた。黒のスエードの靴もよく似合っている。
シンプルなものを、こうも着こなすのか。
男の人のPコートっていいよなぁとその姿を眺める。
「萩原さんも初詣?連れとはぐれちゃって、どうしようかと彷徨ってたら萩原さんらしき人を見つけて、思わず声掛けちゃったよ」
「え!私も両親とはぐれて途方に暮れてたの」
「仲間かぁ〜」
私が手に持つミルクティーを見て、尾瀬くんも「自分も飲も」って自販機に小銭を入れる。
少し悩んでからココアのボタンを押していた。さては甘党だな。
一口飲んでから息を吐くと白くなったので、彼は面白がって何度も同じようなことをしていた。
「お知り合いとは連絡取れたの?」
「あぁ、一応は。屋台で欲しいもの見つけて並んでるから、もう少し待てって。そっちは?」
「んーたぶんメール見てないっぽくて。でも家近いから、最悪先に帰るよ」
「へぇ、家この近くなんだ」
正月早々会えてラッキーだなぁと内心浮かれる。
話しながら私も飲み物を口にして、尾瀬くんの真似をして白い息を吐くとクスクス笑われた。
子供扱いされてるみたいで、なんかくすぐったい。
「そういえば、最近歌ってる?」
「いや、最近は全然行ってないの」
「そっか、良かったー。また別の場所に移動したのかと思って心配してた」
し、心配って。
またそんなこと言う。