ピエリスの旋律


私がちょっと照れたのを尾瀬くんは見逃さなくて、目が合うとまたクスクス笑うので、ぷいっと顔を背けた。

すると、私のそんな素振りが子どもじみてておかしかったのか、次は声を出して笑われた。
その笑い声が耳をくすぐる。


「聞いてもいい?」


笑いを噛み締めながらこちらに目を向ける。

「どうぞ?」と答えた私の声はまだ先ほどの出来事を引きずっていて、若干ふて腐れたようなものだった。


「歌はじめたきっかけって、何だったの?」


私の態度なんて気にしないという風に、優しい目で笑い掛けてくる。


「きっかけ?」

「うん、きっかけ。次会ったら聞こうと思ってた」


「もっと早く会えるかと思ってたけど」って柔らかい笑みを浮かべる。
彼は外で、——路上ライブで会った時に、私に尋ねるつもりだったのかもしれない。

学校では、彼が私に歌のことを聞いてくることはほとんどなかった。
席替えで隣になったあの日の1回だけで、私が他の人に教えていないってことを読み取ると、全く触れてこようとはしなかった。

その気遣いが、私にはとってもありがたかった。


「これといった、はっきりしたきっかけはないんだけど。しいていえば、父親からギター貰った時、かな?」


尾瀬くんはこういう、私以外興味ないかなって心配になる話も、うんうんって頷きながら聞いてくれる。

私の夢を笑わないでいてくれた時点でかなり彼に心を許している私は、その優しさに甘えて、思う存分自分の好きなものの話をするのだ。
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