ピエリスの旋律


「小さい頃、大掃除してたら父親のギターが出てきて。ちょっと弾いてもらったら、私があまりにも喜んで飛び跳ねるから、そのままプレゼントしてくれたらしい。ぼんやりとしか思い出せないけど」

「なんかいいね。萩原さんが今使ってるのも、そのギター?」

「そうそう。だいぶ古いけど愛着あるし、弦さえ替えればずっと使えるから」


私が初めて手にした楽器が、アコースティックギターだった。
いくつか傷もあるし、決して綺麗とはいえない代物だけど、私が成長する側ではずっとあのギターがあった。

恥ずかし気もなく相棒って呼べるような、そんな大事なもの。


「それから、歌手も志すようになったって感じ?」

「うん。なんか歌うの楽しいなぁって、気付いたら目標になってた。あんまり胸を張れるもんでもないけどね」

「え、どうして?かっこいいよ、そういうの」


寒そうに両手をコートのポケットに入れて、眩しいくらいの笑顔を浮かべる尾瀬くん。

こんな喧騒の中でも、彼の澄んだ声はよく響く。
低くも高くもない、心地の良い透明感のある声。私もこんな声が欲しいなぁってちょっと嫉妬してしまった。


「尾瀬くんの話も聞かせてよ」

「えー。俺のは今度でもいい?」


そう言葉では言うものの、表情にははっきりと話す気ありませんって現れている。
私に散々気持ちよく話をさせて、自分は一切言わないなんて…!

どうして私は、こんなにも色んな人にもてあそばれるんだろうか。
美亜にも以前同じような台詞を言われた気がする。

< 17 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop