ピエリスの旋律


悪態でもついてやろうと尾瀬くんに目を向けると、彼は何やらスマートフォンを操作していた。


「…もう来るって?」

「うん、そうみたい。相手してくれてありがとうね」


画面から顔を上げた彼が微笑む。
相手をしてもらったのは私の方で、私が一人で自分語りしてたようなものなのに。

そう考えると、急に先ほどまでの自分が恥ずかしくなった。

でも、「新年から萩原さんに会えて良かったよ」って彼は曇りのない目で言うものだから。
単純な私は恥ずかしさなんか忘れて、ほっこりとした温かい気持ちに満たされて、自分が世界一の幸せ者のような気持ちになってしまった。

なんだかんだで彼は優しいし、やっぱりズルいなぁ。


「そろそろ行くね。また学校で」


そうふにゃりと笑って手を振って、尾瀬くんは群衆の中に消えていった。


私のスマホにも両親から連絡が来ていて、ちょうど掛かってきた母親の電話を取ると、「もう、心配しすぎて迷子センターに問い合わせしようとした!」なんて冗談を吹っかけてきたので、電話口で大笑いしてしまった。

ずっと私達を探していたらしい両親と合流して、兄が美女と消えたことはちゃんと報告しておいた。そのせいで私は迷子になったんだもん。
まぁ尾瀬くんに会えたから、ラッキー迷子かなって思うけど。



お参りを済ませた後に引いたおみくじは、なんと大吉だった。
「多くの幸が貴方を待つ」って書いてあって、私は1年のスタートを最高の気持ちで切ったのだった。


ちらっとみた恋愛の欄には、一言「叶う」って書かれてた。


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