ピエリスの旋律
「この前のこと、聞きたいと思ってたからちょうど良かったよ。これからよろしくね」
そう左隣からふにゃりと笑い掛けてきて、どんだけ破壊力のある笑顔を持ち合わせてるのってダメージを受けながら思った。
あれから週の明けた月曜日、担任の気まぐれによって行われた席替えで、私の趣味に居合わせた尾瀬貴大(おぜ たかひろ)くんと隣の席になった。
クラスの数人の女子は、彼の隣を手に入れた私に羨望の目を向けてくる。
尾瀬くんって、そういう立ち位置の人だ。
「やっぱり聞いちゃう…?ですよね、そうですよね…」
「ん?もしかして隠してる?」
「いや、そういうこともないけど、改めて恥ずかしいっていうか。知ってる人に見られると、照れるよね」
「そう?かっこいいなぁって見てたけど」
尾瀬くんの言葉に、あの夜のことを思い出す。
私を真っ直ぐに見つめる彼。
普段の柔らかいイメージはどこかに消えて、夜の光の中、色っぽく見えたその姿は嫌でも目に焼き付いた。
あの時、そんなことを思ってくれてたのか。
「あ、ありがとう」
「あの場所に行ったら、また聴ける?その歌声」
予想もしていない言葉が返ってきて、思わず咽せた。
そんな私の様子を、黒目がちの瞳が見ている。
え、まさか無意識でこの聞き方?
反則じゃない?
そこらへんの女子より、圧倒的に小悪魔じゃない?
「い、いや、あの場所は、もう行かないと思う」