ピエリスの旋律
冬の廊下はかなり冷える。
底冷えがひどくて、手も足も寒さでとっくにかじかんでいた。
上履き用のサンダルを履いた二人の足が向かい合ってるのが見える。
私が俯いて何も言わないので、尾瀬くんも何も言わなかった。
遠くで生徒達のはしゃいだ声がして、私はそれを違う世界にいるような気分で聞いていた。
彼は何一つ間違えたことは言っていない。
でも、新学期の始まりに気分が下がってしまった。
彼に、というより
ここまで言われないと危機感を感じない、自分自身に。
予鈴が鳴って、やっと尾瀬くんが口にした言葉は「戻ろうか」ってその一言だった。
私は「うん」とだけしか返事が出来なくて、彼の後ろ姿が廊下の角に消えるのを見送ってから、その場を離れた。
教室に入るともう彼は席に着いてノートを広げていて、美亜が自分の席から遅いじゃんと目線を送ってくるのに曖昧に返してから、私も自席に腰を下ろした。
気まずいやら何やらで、出来るだけ左に目を向けずに午後の授業を過ごした。
そんなので夢叶えられると思ってんの?って彼の言葉は、嫌でも耳に張り付いて、何度も頭の中を巡った。