ピエリスの旋律
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翌日、私が登校するとすでに、左隣の机の上には小さな袋が4つ置かれていた。
それぞれ違う柄の、水色やピンクの袋。
有名なチョコレートブランドのロゴが書かれた紙袋まである。
その後やってきた尾瀬くんは、それらを動じるわけでもなく、自分で持ってきたらしい大きめの茶色い紙袋に入れていった。
普通の顔をして、机の横のフックに掛ける。
どうしてよりにもよって、それを右側に掛けるんだ。
彼への思いが詰まった贈り物が、嫌でも目についてしまう。
私がその紙袋をじっと見つめているのを、尾瀬くんはおかしそうにクスクス笑ってくる。
「…おもしろくない?」ってふざけたように聞いてくるので、「いや、とってもおもしろいー。爆笑ー」って棒読みで返すと、少し嬉しそうな顔をされた。
ほんとに何なの。
ぜっんぜん、おもしろくない。
その日は一日、悶々とした気持ちで過ごした。
休み時間になると、代わる代わる女の子がどこからか湧いてくる。
その彼女達の手にあるもの全て、尾瀬くんは笑顔で受け取っていた。
毎年こんななのか。
このペースでいくと、放課後には20個を優に超えるんじゃないだろうか。
自らの鞄の中に隠し持っているものを、やっと彼に渡せたのは放課後のことだ。
いや厳密には、貰ったチョコが入れられた紙袋に、勝手に押し込んだ。
昨日あげた小さなチョコより10倍近く値段のする、ちゃんとしたのを百貨店で選んだ。
彼の好みを考えて、ミルクやスイートチョコレートが多く入ってるもの。