ピエリスの旋律

「な、なにか」

「私、2組の宮永千秋です」

「はぁ…」


淡々と話す彼女の声が、2人だけしかいない教室に響く。
どうしていきなり呼び止められたのか分からず困惑する私を見て、彼女は少しの苛立ちを表情に浮かべた。


「萩原さんはさ、尾瀬くんのことが好きなの?」


投げ捨てるように、でも本当に真意を知りたいっていう風にも感じられる聞き方。
彼女はこのために、私に話し掛けたのか。

きっと、私が尾瀬くんの紙袋にチョコを入れる様子を見ていたんだ。


「いや、違うよ」

「じゃあどうしてチョコをあげるの?好きでもないのに?」


ど、どうしてって…。


「色々お世話になってるから、普段のお礼も兼ねてあげたの」

「それなら、直接渡せばいいじゃない」


それはそうなんだけど…。
この子、初めて話したのにかなりグイグイ来るなぁ。


「ねぇ、好きなんでしょ?」

「あの、…それってあなたに関係あることなのかな?」


人の心に土足で乗り込んでくる彼女に苛ついてしまって、喧嘩を売るような話し方になってしまった。
私をじっと見つめていた瞳が、キッと睨みつけてきた。


「ちょっと隣の席になったくらいで仲良くしちゃって、いい気にならないで」

「はい?」

「好きじゃないなら、仲良くしないでよ」


さっきからこの子、言ってること無茶苦茶だ。

自分が言ってることは何一つ間違ってないって表情で睨んでくるけど、尾瀬くんが誰と仲良くしようが勝手じゃない?
尾瀬くんと隣同士になれて、まぁいい気になってないとは正直言い切れないけど、今日初めて話したこの子にとやかく言われる筋合いは全くない。


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