ピエリスの旋律

「宮永さん、だっけ」

「なによ」

「尾瀬くんが誰と仲良くしようと、彼の勝手じゃない?それとも、宮永さんは尾瀬くんの彼女か何かなの?」


ついつい苛立って吐いた言葉が、彼女の逆鱗に触れた。

私を睨みつける目が激しさを増して、両手の拳を握り締めている。
その肩がわなわなと震えていた。


「あんた馬鹿にしてんの?私が下に出てやったらその態度?ほんとに、目障りなのよ。尾瀬くんの周りをちょろちょろと。尾瀬くんは誰とも付き合わないの。無駄な努力ってそろそろ気付かない?」


彼女のあまりの勢いに言葉を失う。
私を心の底から憎いって表情で見てくる。


私は別に、尾瀬くんの周りをちょろちょろした覚えはない。
隣の席同士、他の人よりかは話すくらいで、そこまで親密になった覚えはない。

現時点で彼女がいるようには見えないけれど、尾瀬くんが誰とも付き合わないなんて誰が決めたのって感じだし、私は彼女の言う努力なんてしたことない。

でも、彼女はさっきからずっと私を睨みつけてくる。
こんなにも人から嫌われることってあるんだって、それくらいの視線で。


「私知ってんのよ。あんたと尾瀬くんが外で会ってるの」


その言葉に、私は大いに動揺した。
彼女からの憎しみの目線も、無茶苦茶な責めの言葉も、一気に吹っ飛んでしまうような衝撃がある。

見られた?私達が二人でいるところを?

真っ先に浮かんだのが、私の路上ライブを尾瀬くんが見てくれている場面だった。
こんな私を嫌ってる人に知られたら、どんな風に言われるか分からない。

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