ピエリスの旋律



「なに、今の男」


ぼーっと倉田さんの背中を見送っていると掛けられた声。
そこでやっと、尾瀬くんを待たせていたことを思い出した。


「尾瀬くん!」


歌い終わってすぐ倉田さんに声を掛けられたので、足元にはまだ開けっ放しのギターケース。

なぜか尾瀬くんは面白くなさそうな表情を浮かべている。


「尾瀬くん!」

「…なに」

「ライブに出ないかって誘われた!ライブハウスで歌えるの!私!」


はじめは憮然とした表情で聞いていた彼だけど、私の言葉に、驚いたように目をぱちくりさせた。

私はさっき自分の身に起こったことが嬉しくて嬉しくて。
何よりこうやってすぐ、彼に報告が出来たことがとても嬉しかった。
来週からは期末テストが近いせいで見に来れないと事前に言われていたので、こうして誘われたのが今日で本当に良かった。


「え、ほんとに!?いつ?」

「4月の半ば。もし予定合えばでいいんだけど、良かったら来てくれる?」

「行く、絶対行くよ!」


尾瀬くんは自分のことのように喜んでくれて、私は嬉しさで泣いてしまいそうだった。

たったこんなことって思われるかもしれないけど、私には大きな一歩だ。
オープニングアクトだって立派な出演者。
自分に恥じないパフォーマンスをしないと。


「さっきのは、関係者か何か?」

「あ、一緒に出る人。インディーズで結構有名なバンドなんだって」

「なんてバンドって言ってた?」

「確か、flashだって」


と言いながら、先ほど貰ったカードを思い出す。

< 39 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop