ピエリスの旋律



「さっき仲良さそうに話してたね。もう、私という女がいるのに!」

「え、それどっちに対して?」

「もちろん栞」


やめてよーって笑いながらお弁当箱を開く。
幸いにして、左隣は空席だ。


自分の席からイスを引っ張ってきて、私と同じようにお弁当を頬張るのは同じクラスの佐藤美亜(さとう みあ)。

同じ中学の出身だが、その当時は別のクラスでほとんど話したことがなかった。
高校に入った初めの年に一緒のクラスになり意気投合、2年でも同じクラスになり、こうして昼休みは二人でお弁当を食べる仲だ。

ちなみに3年はクラス替えがないので、来年もこうして過ごせることが決定している。


「にしても、かなり浮かれてたでしょ。めっちゃ顔が笑ってたよ」

「え、見てた?」

「うん、ばっちり」


少し気まずい思いで箸を進める。


「だってさぁ、歌のこと褒めてくるんだもん」

「え?尾瀬ってそのこと知ってんの?」

「あ、言い忘れてたけど、この前偶然見られて…」


えぇっ、という驚きの声とともに栗色のくせのかかった髪が揺れる。
それは彼女が生まれ持ったもので、確かおばあちゃんが外国の人で、美亜自身もその血を受け継いでると言っていた。

もちろん美亜は、私が歌うことを知っている。


「何て言ったらいいのか分からないけど…」

「うん」

「見られたのが他じゃなくて良かったね」


苦笑いして見せる彼女に、私は大きく頷いて返事をした。

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