ピエリスの旋律

隣から「あっ」と声がして見ると、何やら尾瀬くんは閃いたような顔をしていた。
私の視線に気付いて彼もこちらを見るけれど、言おうか言わまいか迷ってる様子。

そして、ためらいがちに口を開いた。


「萩原さん、最近作詞してるって言ってたよね?」

「うん?」

「詩を織るって書いて、詩織はどうかな?本名と同じ読みだし、萩原さんのことも表わせてるかなと思うんだけど…」


彼が話し終えても私が話し出そうとしないので、尾瀬くんは焦ったように「嫌ならいいんだよ」って首を横に振った。


いや、嫌じゃないの。
あまりにも、あまりにもストンと胸にその名前が落ちてきて、驚いてたの。

詩織、か。


「いい、」

「え?」

「その名前、とってもいい!使わせてもらってもいい!?私のアーティスト名にしても?」


興奮して大きな声を出した私を見て、彼は「良かった」とホッとしたように笑う。


「嫌だったかなって思っちゃったよ」

「嫌なことあるわけない!尾瀬くんが付けてくれた名前だもん。“詩織”。私だけど、私じゃないみたいだね」


嬉しくて照れ臭くて、ふふふって笑い声が漏れる。

詩織かぁ。
しっくりきちゃった、気に入った。


早速明日、倉田さんに連絡しよう。
アーティスト名決まりましたって。なんだかアーティスト名って響きも、かっこよくて照れちゃうね。

大事なこの名前を、尾瀬くんに付けてもらえるなんて。

< 41 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop