ピエリスの旋律
「…どんどん遠くに行っちゃう」
「ん?なに?」
「いや、萩原さんは夢に向かって頑張ってるなぁと思って」
頑張ってるというより、楽しいんだ。
こうやって自分に出来ることをやって、それが自分の未来を作っていって。
今日みたいに、本当に夢に一歩近付くような、そうやって報われる瞬間がある。
その時、心から幸せを感じるんだ。
私が歌うのは、誰かを感動させたいとか誰かの心に残りたいとか、そういうのが一切ないわけではないけど。
何より歌うことで、見たこともない世界が見えるような気がして、その先を見たいからこうやって続けている部分も大きい。
「4月になれば、ついに3年生だね」
「そうだよ、受験生だよどうするよ萩原さん〜」
心底嫌そうに表情を歪める尾瀬くん。
尾瀬くんには、本当にお世話になってる。
優しく見守ってくれて、いつも背中を押してくれて。
3年生に上がったとしてもクラス替えがないので同じクラスというのには変わりないけど、きっと今みたいに過ごすことは難しくなるんだろう。
私はまだしも、尾瀬くんは勉強に忙しくなるだろうし、こうして路上ライブに来てもらうことも少なくなるかもしれない。
寂しいな。
そう思うと、余計に寒さが辛く感じた。
私と彼が歩くその間を、真冬の夜風が通り抜けて行く。
二人のこの距離は、なかなか縮まらない。