ピエリスの旋律
ほとんどの教科で90点台。
順位は、文系で…3位。
この時期に、順位が上がってる。
前回は確か4位だったはず。
上位陣の順位の変動というのはそんなになくて、ほぼ固定の顔ぶれが、固定の順位を獲得することが多かった。
3年生に上がる前の最後の試験であった今回は、皆普段より力を入れて勉強をしているのは明らかだ。
そんな中で、この上位で順位を上げるのがどれほど難しいか。
当事者でないとは言え、理解できる。
尾瀬くんは毎週、私の路上ライブに来てくれていた。
きっと、予備校での勉強を早く切り上げて。
だっていつも制服姿で、駅の方面から歩いてくることなんてなくて、絶対予備校がある方から私のところに来て。
尾瀬くんの、見えない努力は計り知れない。
私が奪ってしまったであろう時間を、きっと別のところでカバーしてるんだ。
私、尾瀬くんの負担になってないだろうかって、突然そんな不安がよぎる。
「よく、頑張ったねぇ」
さっき彼が言ったみたいに笑って言おうと思ったけど、自分でも驚くほど情けない声が出た。
そんなことには気付かない彼は、「えへへ」って女の子みたいな可愛い顔をして笑った。
そっと、彼に順位表を返す。
私は初めて、現実というものに目を向けたのかもしれない。
言い方は悪いかもしれないけど、私の夢は大学に行かなくても叶えられる。
でも、尾瀬くんの夢はきっと違う。
私の不確かな夢に、尾瀬くんを巻き込んではいないだろうか。
彼は優しいから、ああして毎週律儀に来てくれているけれど。
それは彼自身の、夢の邪魔になってはいないだろうか。