ピエリスの旋律

『あんたの居場所じゃないから。』


記憶の片隅で息を潜めていた、宮永さんの言葉が目の前に浮かび上がる。
苦い、バレンタインデーの記憶。

あなたの言う通りなのかもしれない。
彼には頭が良くて将来が有望で、清楚で可憐な人がお似合い?


あーあ、私とは全然違う。


明日で2年生も終わって、この座席とはお別れしないといけない。
当たり前のように座っていた尾瀬くんの隣に、もうこうして座ることもなくなるんだ。


こんなにも悲しいなんて。
永遠の別れでも、なんでもないのにね。


***



「栞ちゃん、久しぶり」


倉田さんの髪は今日も眩しい。そのモデルのようなスタイルと、作り物のように整った顔も。

期末試験が終わると、あっという間に春休みがやってきた。
休みだと浮かれてはいられない。
4月のライブに向けて、考えなきゃいけないことは山ほどある。


倉田さんから、ライブの打ち合わせをするとのことで呼び出されたこの日、私はあるライブハウスに来ていた。

古着屋やカフェが多く並ぶ路地にあって、足を踏み入れるまでは小洒落たバーと見間違うような外観。
黒の外壁に、木で出来た大きな両開きの扉。
その外壁に浮かぶように掛けられた、そう大きくはない金属の看板には、“Live House CROSS”との文字があった。

扉をくぐると小さなエントランスがあって、壁には至る所にポスターが貼られていた。
バンドのライブ告知がほとんどで、よく見るとCDの宣伝ポスターまである。

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