ピエリスの旋律

「やめ、ません」

「うん、そうこなくっちゃねぇ。こんなチャンス棒に振ったら、本当に馬鹿だよ」

「…はい」

「まぁその焦ってる顔見たくて、黙ってたのもあるんだけど」


明るい効果音が付きそうな勢いで私にウィンクをした彼に、攻撃力皆無の睨みをお見舞いする。
それを笑ってあしらわれていた時、ホールとエントランスとを繋ぐ扉が開いた。

倉田さんと私は揃って、そちらに目を向ける。


「お待たせ〜」


そんな軽快な声とともに現れたのは、二人の男性だった。


「うちのメンバー、紹介するね。こっちがギターボーカルの佐々木詠太(ささき えいた)で、もう一人がベースの丸谷篤(まるたに あつし)」


何度も繰り返し、flashのサイトで彼らの名前は目にしていた。
でもこうして顔を会わせるのは、今日が初めてだ。


「はじめまして、萩原栞と申します。今回はありがたいお話を下さり、本当に感謝しています」

「いや、堅い堅い!まだ高校生やんな?」


耳に慣れないイントネーションでそう返して来たのは、ベースの丸谷さん。

茶色の髪にふわふわしたパーマ、女の子のような可愛らしい顔立ちは、ステージでよく映えるんだろうなぁと思う。
倉田さんと同じような系統に感じるけど、ベースの丸谷さんの方が背が低くて、醸し出す空気も子犬のような無邪気さがある。


「しっかりしてるのは良いことだよ。萩原さん、はじめまして。ギターボーカルの佐々木です」


一番バンドマンらしくないというか、清潔感の溢れる黒髪に物腰の柔らかさが表に出ている、真面目そうな人だと思って佐々木さんを見た。
よく通る低めの声が、どんな歌を奏でるのかと思うとドキドキする。

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