ピエリスの旋律


それは私も感じていた。


私達の通う高校は偏差値がそこそこあり、いわゆる進学校の部類だ。
その中では、私のような趣味はあまり好まれない。
将来安定した職に就くのを目標に、毎日勉強に励む生徒達ばかりなのだ。

もし誰か、尾瀬くんとは別の人に見付かっていたら、変な噂を流されたり陰口を吐かれたりしたかもしれない。
こういう不安定な、夢見がちなものは嫌われる傾向にある。

その点、尾瀬くんは安心と言える。
全身から醸し出される人畜無害のオーラ。
言いふらしたりはしないだろうと、私も勝手に思い込んでいる。


「また聴きたいって、言われてしまったよぉ」

「いいじゃんいいじゃん。これを機会に何か始まるんじゃない?」

「そんな都合の良いこと、起こるわけ」

「いやぁ?分かんないよ?まぁ楽しんじゃいなって」


他人事だなぁと私がぼやくと、だって他人事だもんって美亜は笑ってみせた。
こうしていると、本当に西洋人形が動いてるみたいだ。


「…まぁ、隣になれたのはすごいラッキー」

「ほんと羨ましいんだけど。ま、別に私のタイプじゃないんだけどね」

「さっきから言ってること無茶苦茶だよ?」


思わず苦い顔をしてしまった。

話しながらでも美亜の食べるスピードは凄まじく、彩り豊かな具はもうほとんど残っていない。
最後の一つになっていた卵焼きを頬張りながらニコッと満足げな顔をする。


「だって、私はワイルドな年上が好きだもん。尾瀬は可愛すぎるんだよ」


私には美亜の可愛さが数百倍上回ってると思うんだけどなぁ。

でも尾瀬くんが可愛いって言うのも分かるんだけど。
カッコいいより可愛さが勝ってる感じ?

< 5 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop