ピエリスの旋律
自己紹介もそこそこに、ライブに向けての打ち合わせが始まった。
客席真ん中の丸テーブルを4人で囲んで腰掛ける。
「3曲考えてきた?何歌うか」
「はい」
倉田さんが話し始めるのを、他の二人は何やら紙の資料を見ながら聞いていた。
こういう感じでいつも進めているのだろう、倉田さんが進行役で、それを聞いてる二人は倉田さんに信頼を置いて任せているようにも見えた。
選んだ3曲を順番に言っていく。
オープニングアクトっていうのは、その後に本当の主役が待っていて、その主役のために場を温めておく必要がある。
そういったことを考えて、アップテンポの曲ばかりを選んでいた。
「んー、これって本当に栞ちゃんが歌いたい曲?」
「…というと?」
「路上で聴いた時、伸びやかで、空に抜けるような綺麗な高音が素晴らしいと思ったわけね、俺は。これだと、栞ちゃんのいいところが出し切れない」
思ってもみなかったことに、あからさまに動揺する。
まず選んだ曲にダメ出しされるとは思ってなかったっていうのと、それ以上に、倉田さんが私の歌声をどう感じていたかというのを不意打ちで知ってしまってどぎまぎした。
「バラード入れてくれていいよ。真ん中に挟んだらきっと納まりいいし」
私がわざと明るい曲ばかり選んでいたのは、どうやらお見通しのようだ。
倉田さんが「これとか」って提案してくれたバラードは、私が路上で長く歌い続けてる男性歌手のもので、私が気に入って歌っているというのも分かってるような彼の口ぶりに驚きを隠せなかった。
メンバーが信頼を置くのも頷ける。
この人の観察能力とか、話し合いを良い方向に持っていくこの力は、一種の才能だ。