ピエリスの旋律
「あと、音源も必要だね」
「音源?」
「栞ちゃんって、ギター1本でしょ?まだライブに慣れてないし、音源流した上にギター弾いた方が失敗しても隠せるってこと。それに音源乗せた方が派手に見せられる」
たくさんのことが次々に決まっていく。
私はその波に取り残されないように、必死にかじりついて聞いていた。
その様子を見ていたベースの丸谷さんが、ふふっと笑った。
「迷子の子猫みたいやな」
「からかうのやめなって」
ギターボーカルの佐々木さんが静止してくれたけど、私は子ども扱いされたみたいに感じて顔を真っ赤にした。
そんな情けない顔をしていただろうか。
「まぁ俺らがバックバンドするのもええんちゃう?」
「現実的に考えてみろよ。俺と佐々木はこなせるにしても、一番ネックなのはお前の記憶力だからな」
倉田さんにピシャリと言われてしまって、丸谷さんはお手上げとでもいうように両手を上げる。
「また俺をアホ呼ばわりする」って、言い方は不機嫌そうなのに、その顔は笑顔で溢れていた。
なんだか三人とも、とっても楽しそう。
こういうやり取りはおなじみなんだろうなって感じ取ることが出来た。
そんなこんなを眺めて私も笑っていると、倉田さんは思い出したようにこちらに顔を向けた。
それがあまりにも突然で、ぎょっとしながら綺麗な顔を見つめる。
「言い忘れてたけど、当日サプライズあるから」
真面目な顔をしてそう言う倉田さんに、それをバラしちゃサプライズではないのでは?と野暮なことを思ってしまう自分が嫌になる。
「なんの、ですか?」
「そこはさすがに言えないけどね。ほら、サプライズだし」