ピエリスの旋律
#07. ごめんなさいと涙
春休みということもあって明日も学校がないので、路上ライブの後、尾瀬くんと駅前のカフェに入った。
相変わらずこうして、ライブを見に来てくれている。
お互いにドリンクを頼んで、空いている席を探す。
背中にギターを抱えている私を気遣って、私の飲み物までトレイに入れて運んでくれている尾瀬くん。
その背中を追って店内を歩く。
初めて夜の街で見かけた時、コートにマフラー姿だった彼は今、薄手のコートを羽織ってマフラーなんかしていない。
もういつの間にか4月に入って、時の流れの早さを痛い程感じていた。
「ここにしよっか」
二人用のテーブル席が空いていて、尾瀬くんはトレイを置いて腰掛けた。
私もギターケースを椅子の横に立てかけてから、同じように向かいの席に座る。
私はまだホットのドリングだけど、彼はアイスココアを頼んでいた。
グラスの中には並々と氷が浮かんでいる。
尾瀬くんはストローでそれをかき混ぜてから口を開いた。
「来週から3年かぁ。あっという間に一年過ぎそうな気がする」
「分かる。焦ってる間に終わるんだろうなぁ」
「どんな席順になるんだろ。隣に萩原さんがいないとやる気出ないんだけど」
何の気なしに言ったように見えたけれど、私の動きを封じ込めるには十分過ぎる言葉だった。
目の前の彼は、氷と遊びながらのん気にココアを飲んでいて、ふと目の前の私を見てその動きを止めた。
「…顔、真っ赤なんだけど」
「え、え!気のせい気のせい」
「いや、気のせいじゃないでしょ」
ニヤッとした、彼には似合わない表情を浮かべている。
色っぽく、上目使いにストローをくわえて。