ピエリスの旋律
「そういえば、尾瀬も来るんでしょ?」
咄嗟に返事が出来なくて、無視したような状況になってしまったけど、美亜はそんなこと構わずに続ける。
「最近上手いこといってんでしょ?なに、告白しないの?」
「う、うーん…」
なんとも言えない。
上手く、いってるのかな?
相変わらず私達の間には一定の距離があって、そこがどうしても縮まらないような気がしていた。
口をもごもごさせながら、歯切れの悪い表情を浮かべる私を見て彼女が笑う。
「誰かに取られちゃってもいいの〜?今彼女がいないってだけで、彼女作る気がないとは限らないじゃん」
「それはそうなんだけど…」
「じゃあ何を躊躇することがあるのよ」
いつでも自信たっぷりな彼女に、私の気持ちは分かるんだろうか。
自分でも卑屈な考え方だっていうのは分かっているんだけど。
だけど、そう簡単にいく話ではない。
「…私ってほら、歌手目指してるじゃない?」
「うん、そうね」
「そんな現実味のないもの追ってる私は、尾瀬くんの隣にはふさわしくないと思う」
隣って距離とか座席とかの意味じゃなくて、もっと根っこの部分。
もっと深い、気持ちとか心とかそういうの。
「もっとちゃんとした、将来のことをちゃんと考えてる人がお似合いだよ、きっと」
自分で言っていて悲しくなる。
でもこれは本心で、前からずっと感じていたことだ。
私は、尾瀬くんには似合わない。
彼の笑顔や聡明さを、私で霞ませるわけにはいかない。