ピエリスの旋律
flashのパフォーマンスで会場が揺れてるんじゃないかってくらいに湧いて、それが裏にいる私の耳にも届いた。
そこでやっと、正気を取り戻した。
いつまでも薄暗い舞台裏で座り込んでいるわけにはいかない。
私をステージに招待してくれた人達の演奏を、ちゃんと目に焼き付けないと、って。
ふらつきながらも立ち上がって、私はその場を後にした。
関係者の通用口から、エントランスを経由してライブが行われているホールを目指す。
ドリンクが提供されているカウンターには何人かのスタッフの方がいて、そしてこのライブハウスのオーナーである倉田さんのお父さんもそこに立っていた。
私に気付いて、スポーツドリンクを紙コップに入れて手渡してくれる。
「お疲れさん。なかなか良い声持ってるなぁ、お嬢ちゃん」
渋い声でそう笑い掛けられたので私は照れてしまって、真っ赤な顔のままペコペコと頭を下げた。
ホールは防音になっているとはいえ、このエントランスまで中の音が漏れ出ている。
私の声も、そうして聞こえていたんだろう。
汗をかいて喉も乾いていたので、ありがたくドリンクをいただく。
水分が全身に行き渡っていくような気がした。
「お嬢ちゃんが成人してたら、ビールでも出すんだけどなぁ。ライブ後の酒が、うまいのなんのって」
そう言ってにこにこしているオーナーを、近くにいたスタッフさんが「若い子に何言ってんすか」って制する声が聞こえた。
私は紙コップをゴミ箱に捨てて、ありがとうございましたって頭を下げてからホールに足を踏み入れる。
オーナーはひらひらと手を振って見送ってくれた。