ピエリスの旋律

私はじわじわと色んなことを考えながら、最後尾で彼らを見ていた。
この人たちと同じステージに立っていたんだと思うと、未だに信じられない。

さっきまでのあの時間は、夢だったんじゃないかって思えてくる。

あまりにも真剣に視線を送っていたものだから、誰かが自分の隣に立ったことに気付いてなかったし、右肩に手を置かれたのにもびっくりして体が跳ねた。
ぎょっとしたままに、手が伸びてきた方を見る。


「尾瀬くん、」


彼は肩に手を置いたまま、私の耳元にその口元をそっと寄せた。
え、なに!?って動揺したけど、この音の波の中、自分の声を私に伝えるための手段だったらしい。


「おつかれさま。佐藤さんは家の用事で帰ったよ」


耳元がくすぐったい。
尾瀬くんのその声が、直接脳まで届く感じがして大いに照れた。

彼と美亜が二人で見守ってくれていたのはステージから見えていた。
心強くて力が湧いて、それと同時にすごくホッとしたのを覚えてる。
あぁ、二人がいる。見てくれてるって。


その後の尾瀬くんは、ライブ中ということもあって私に話し掛けてくることはなくて、でも私の側から離れることもなくて。

並んで立っていることなんて今までに何度もあったのに、そのどれとも違う距離、肩と肩が触れそうな近さに彼はずっといた。
駅までの帰り道も、神社で会った時とも違うその距離は、私が前から望んでいたもので。

二人の間にあったはずの見えない壁をいきなり追い越した彼に、なに?なに?って思わずにはいられなかったけどやっぱり嬉しくて。

右肩に心地よい緊張感を抱いたまま、flashの音楽に酔いしれた。

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