ピエリスの旋律


「くくく、倉田さん!!」

「あ、おつかれ栞ちゃん」

「おつかれじゃないですよ!何ですか、デビューって!!」



ライブの終盤、曲間にいきなり『発表があります』って倉田さんが言った。

途中のMCも倉田さん中心に回していて、打ち合わせのことを思い出して適役だなぁと見ていた私。
倉田さんは話し始めるといつもの様子に戻って、色気むんむんというより、ベースの丸谷さんをいじり倒して遊んでるような無邪気な若者だった。

その時みたいな笑顔で、ドラムセットの向こうに座っている。
『発表があります』って倉田さんの言葉に丸谷さんは満面の笑み。ギターボーカルの佐々木さんも、優しくにっこり。

その場の観客の視線を一新に浴びた倉田さんは、そんな皆の様子を面白がって、もったいぶってなかなか口を開かなかったけど。
やがて、わざとらしく大きく息を吸い込んでから口を開いた。


『flash、メジャーデビュー決まりました』


息を飲んで見守っていた観客たちは一瞬呼吸の仕方を忘れたように静かになって、その後割れるような歓声を上げた。

へ?っとのん気な声が漏れて、思わず尾瀬くんを見た。
すると尾瀬くんもぽかんとした顔でこちらを見ていて、私達はしばらくそんな顔で向かい合っていた。


『インディーズとしてのライブは今日が最後です。これからは、今までみたいなスパンでライブは出来ませんが、必ずデビュー後、皆さんが満足できるようなものをお見せします』


きらっきらに輝く倉田さんの笑顔。
こんな顔、見たことない。

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