ピエリスの旋律

『ここまで来れたのは皆さんのおかげです。本当に、心から感謝しています。でもメジャーデビューは、俺たちの夢への第一歩です。だからこれからも、どうぞよろしくお願いします』


倉田さんが立ち上がって舞台の前方に出てきた。
佐々木さんと丸谷さんもそれに並んで、そして三人一斉に頭を深々と下げる。

客席には泣きながらその様子を見ている人が何人もいて、私は未だ夢心地で、そんな彼らを呆然と見ていた。



「ね?サプライズがあるって言ってたでしょ?」

「そんなのすっかり忘れてましたし!サプライズがこれですか!」


ドラムセットを片付けている倉田さんに食ってかかる。
だって、本当にびっくりしすぎて、心臓が止まるかと思った!

息の荒い私を、彼は鼻で笑う。


「まぁでも栞ちゃんの驚き顔も見れたことだしね」

「事前に言ってくれても良くないですか?こういうことに関しては、絶対誰にも言わないし、それに…」

「それに?」

「…そんな大事なライブに、私が出て良かったんですか?」


驚いたとか、事前に言ってほしかったとか、それはもちろんあるけれど。
私の頭に、一番に浮かんだのはこれだった。

私みたいな経験も少ない素人が、デビュー前最後のライブに出るって、そんなのリスクが高過ぎる。
もっと最後を飾るにふさわしいゲストが他にいたはずだ。


「勘違いしてるみたいやけどさぁ、倉田は今回色んな選択肢の中から栞ちゃんを選んだんやで?スケジュールの都合で出られへんくなったバンドもあったけど、それをどけても、声掛けれる人は他にいっぱいおった」

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