ピエリスの旋律
丸谷さんがアンプのコードをまとめながら声を掛けてくる。
またからかわれるのかなって思ってたけど、その表情があまりにも真剣で、私は黙ってその言葉を聞いた。
「そんな大事なライブやからこそ、栞ちゃんに出てほしいと思ったんやろ?こっちは」
思わず目頭が熱くなる。
だって、そんな。
何度か路上で見かけただけの私を?
「丸谷の言う通り。僕は栞ちゃんで良かったなって、今心から思ってるよ。栞ちゃんのおかげで僕らも良いライブが出来た」
本当にありがとうねって、ギターボーカルの佐々木さんが、丸谷さんのアンプの片付けを手伝いながら言ってくれた。
私はもう、何て言葉を返すのが正解かも分からなくて、掛けてもらう言葉に曖昧に頷くことしかできなかった。
こんなありがたい話、ある?
路上で歌ってるのを見つけてもらって、ライブに上がらせてもらって。それがこんなにも大切な1公演で。
どう感謝の気持ちを表せばいい?
どうすれば、この気持ち伝わる?
「今夜の打ち上げのことだけど、お酒の席だし申し訳ないけど栞ちゃんは帰りなね。その代わり、今度ここでジュースパーティーしよう」
倉田さんが、色素の薄い澄んだ瞳を細めて笑い掛けてくれる。
私は涙を我慢しながら、何度もその言葉に頷いた。
「俺らは寝ないで1限かな?酒臭いって教授に言われるのは、さすがに避けたいんだけどな」
その言葉にも、先ほどの流れで同じように頷い、たんだけど。
ん?1限?教授?
意味分からないという感情が表に出ていたんだろう。
倉田さんが、「あ」っと言葉を上げる。