ピエリスの旋律


「萩原さんの声がして、吸い込まれるように来ちゃったよ〜」


そんな嬉しすぎる言葉に照れてしまって、曖昧な笑みしか出ない自分が恥ずかしい。

短い路上ライブ(あれをライブと呼んでしまっていいかも疑問だけど)が終わり、私達は近くの植え込みの端に腰掛けた。
私の足元には大きなギターケース。


「帰りはこの駅?」

「そうそう。こっちの方が家近いから、予備校の時はここまで来て電車乗ってる」


気持ち程度しか変わらないけどねって、いつもみたいにふにゃりと笑う。
笑った時に目尻にしわが寄る様が可愛い。


「さっきは、あんな顔して聴いてくれてありがとう」

「あんな顔って、どんな顔してた?」

「え?すごい楽しそうな顔、してくれてたけど」


そんな言葉に彼は目をぱちくりさせて、「えー」とバツが悪そうに頭を掻く。


「ごめんそれ、ほんと無意識だわ。また聴けて、ちょっと舞い上がってた」


予想外の返答に次は私が目をぱちくりさせ、急速に顔に熱が集まるのを感じた。

その言い方は、ズルい。


「それにしても、萩原さんて男性ボーカルの歌しか歌わないの?」

「歌わないというか、異性の声でカバーしてる楽曲で好きで」


程よく冷たくて気持ちの良い夜風が頬を撫でる。

植え込みの木々には申し訳程度の電飾が付けられているけど、駅や商業施設の照明のせいで霞んで見える。
そんな前で尾瀬くんとこうして話しているのが、ちょっとおかしい。


「あ、確かに分かるかも。男の歌を女の子が歌ってると可愛いって思っちゃうもんね」

「そう、それ。女の人のを男性がカバーしてるのとか、結構印象残るよなぁって思ってそれで始めた。もちろん女性ボーカルの歌も勉強してるけどね」

「例えばどんなの?」

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