ピエリスの旋律

…それって、つまり。


「その顔のお父さんがかっこいいって言ってる風に聞こえるんだけど、そう解釈してもいいの?」

「う、え!?違う違う、そんなこと思いながら見てたって言いたかっただけ」


彼の表情をちらっと盗み見たけど、耳が真っ赤になっていてそれを隠したがっていたので、思いもせず出たボロだったらしい。
あまり見ることのない尾瀬くんの様子に頬が緩む。


「お父さんのこと大好きなんだね」

「いや、大好きって、この歳の男が言うの変でしょ。尊敬は、してるよ?」

「だから、尾瀬くんも弁護士目指してるんだね」


尾瀬くんのお父さんって、どんな人なんだろう?
息子に同じ職業を目指したいって思わせるほどの、良いお父さんなんだろうなぁ。

お母さんはどんな人?兄弟はいる?
私って、思ってるほど尾瀬くんのこと良く知らない。
将来は弁護士になりたいって教えてくれた時以来の、この夢の話だし、どこまで踏み込んで聞いていいものなのかも分からない。

自分の話はいっぱいして、いっぱい聞いてもらってるのにね。


「まぁ、そうだね。大学も父親が行ってたとこ目指してるし」

「え、そうなの?」

「そうだよ」


そう言って尾瀬くんの口から出た大学名に、私は驚いた。


「…倉田さんたちの、行ってる大学だ」

「え?倉田さんって、昨日のバンドの人?え?あの人たち大学生なの?」


尾瀬くんはかなり驚いた顔を見せて、しばらく何の言葉も発さなかった。

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