ピエリスの旋律
尾瀬くんの言いたいことは分かる。
関東でも上位に位置する国立大学、そんな学校にflashの三人が通っているというのは想像がつかない。
ギターボーカルの佐々木さんだけならまだしも、倉田さんに馬鹿呼ばわりされていたベースの丸谷さんや、派手な髪色の倉田さんがあのキャンパスを歩いているって思い浮かべるだけで笑えてしまう。
偉そうに言ってるけど、私の学力では絶対にあの大学へは行けない。
「あ、安心して?あの人たち4年生だから、来年には卒業してる」
「んー…、なんか色々負けた気分だわ。俺絶対にあの大学受かってみせる」
彼は複雑そうな表情を見せた後、拳を握ってみせた。
私も同じように拳を握って、「がんばって」って声を掛ける。
どの大学を目指してるかっていうのも、初めて聞いた。
私なんかでは絶対に目指せないような学校。
今こうして一緒に歩いていることさえ不思議になるほど、尾瀬くんは私とは違う。
そんな話をしているうちに、もう学校の敷地に足を踏み入れていた。
楽しい時間は終わってしまう。尾瀬くんは同じクラスだけど、今は隣の席ではないし教室ではあんまり話せない。
次にゆっくり話せるのは、路上ライブがある木曜かな?
3日も先じゃないかと落ち込みながら、私は自分の靴箱を目指す。
靴を履き替えて階段に向かおうとすると、尾瀬くんは律儀に私を待っていてくれた。
それは意識しての行動ではないんだろうけど、私はこんなに嬉しくて幸せになってしまう。
小走りで彼の元に駆け寄った。
「ん?萩原さん、電話鳴ってない?」