ピエリスの旋律
「え、私?」
上着の右ポケットを探ると、確かに私のスマホが震えていて、画面を確認すると美亜からの着信だった。
階段を昇りながら、尾瀬くんに断りを入れて電話に出る。
「もしも、」
『今どこ?』
食い気味にそう聞こえてきた声。
いつもとは違う、慌てた彼女の様子に首を傾げる。
電話口の向こうがやけに騒がしいけど、何かあった?
「え?どこって、学校だよ」
『もう着いてるの?ちょっと待って教室に来ないで』
「何言ってんの?もうここ曲がれば教室、」
階段を昇り切って、尾瀬くんと廊下の角を曲がった時だった。
何やら私達の教室の前に人だかりができているのが見える。
いつもとは違った様子に、尾瀬くんと顔を見合わせる。
「え、なにどうしたの?すごい人」
『栞、来ちゃダメ!』
あまりにも大きな声で美亜が言うものだから耳がキーンとなった。
痛いと顔をしかめていると、その人だかりの中の一人の男の子が私達に気付いた。
私達というより、私のことを見て嬉しそうな声を上げる。
「おい、本人来たぜ」
そう彼が発した言葉に、群衆が揃ってこちらに目を向ける。
私と、その隣にいる尾瀬くんを見て生徒達が一斉に声をひそめて何やら話し始めた。
女の子は私のことを睨み付けているように、男の子は面白がって笑っているように見える。
え、なに?
異様な光景に呆然と立ちすくんでいると、電話口から美亜の声が聞こえて、その人混みの中から彼女自身が姿を現した。
「し、おり…」
歯を食いしばって表情を歪めて、怒ってるのか悲しんでるのかよく分からない、そんな顔は今まで見たことがない。