桜の咲く頃
「あなた…あの子は頑張ったわよね」
「あぁ、もちろんだ。自慢の…娘だ…」
桜並木の続く土手を
夫婦が静かに話しながら歩く
数日前、この2人の娘は天国へと旅立った
心臓の病気だった
医者には治らないと言われ
死ぬ日を待つ毎日だった
「あの子、よくここへ来てたわ…」
母親は桜の花びらが舞う道を
遠く眺めながら言った
「病院の生活に、飽きてたんじゃないか?」
同じようにおぼろげな瞳で答える
それに首を振った
「私、それだけじゃないと思うわ」
その言葉に妻の方を見た
「どうしてそう思う?」
「だってあの子、いっつも楽しそうに帰ってくるのよ……」
涙ぐみながらも話を続けた
「あの子の支えになった何かが、ここにはあった気がしてならないの…」
妻から視線をずらし
桜に目をやる
「そういえば…桜が好きだったな」
「…えぇ、そうだったわね…」
2人は遠い記憶を思い出していた
娘の身体に負担をかけないようにと
なるべく遠出は控えていた
しかし、桜が好きな娘のために
毎年花見だけはかかさず来ていた
「最期に桜が見れてあの子も嬉しがってるわよね…」
「あぁ…そうだと、いいな」
そんな会話をしていた時
急に風が強くなり
近くに立っていた大きな桜の木が
音を鳴らし揺れた
その近くにはベンチがあった
何故か不思議とその木に引き寄せられる2人
その時、微かに声が聞こえたような気がして
驚いて顔を見合わせる
「今、何か聞こえなかった……?」
「あぁ…聞こえたぞ」
また風が吹く
『バイバイ…』
風の中に今度こそ確かに聞こえたその声
その瞬間、目の前の桜の木が
たくさんの花びらを散らす
隣の桜も
またその隣の桜も
そんなに散ってないのに
この桜だけ
不思議な散り方をした
まるで泣くように
涙のかわりに桜の花を落とす
「この…木なのかしら…あの子の支えになったのは」
そっと木に手を付ける
花が擦れあいザワザワと語りかける
「ありがとう」
母親はその言葉を選んで桜の木に送った
それ以上は語らず、夫婦は帰って行った
残された桜は桃色なのに
悲しみの色に包まれていた
あの子との約束は、もうおしまい
今、君は笑ってる?
頑張ったね
本当に頑張ったね
君はよく戦ったよ
病気だけじゃない
自分に対しても
僕に話してくれてありがとう
これで本当にサヨナラだ
僕の桜が
彼女と共に散っていく
「あぁ、もちろんだ。自慢の…娘だ…」
桜並木の続く土手を
夫婦が静かに話しながら歩く
数日前、この2人の娘は天国へと旅立った
心臓の病気だった
医者には治らないと言われ
死ぬ日を待つ毎日だった
「あの子、よくここへ来てたわ…」
母親は桜の花びらが舞う道を
遠く眺めながら言った
「病院の生活に、飽きてたんじゃないか?」
同じようにおぼろげな瞳で答える
それに首を振った
「私、それだけじゃないと思うわ」
その言葉に妻の方を見た
「どうしてそう思う?」
「だってあの子、いっつも楽しそうに帰ってくるのよ……」
涙ぐみながらも話を続けた
「あの子の支えになった何かが、ここにはあった気がしてならないの…」
妻から視線をずらし
桜に目をやる
「そういえば…桜が好きだったな」
「…えぇ、そうだったわね…」
2人は遠い記憶を思い出していた
娘の身体に負担をかけないようにと
なるべく遠出は控えていた
しかし、桜が好きな娘のために
毎年花見だけはかかさず来ていた
「最期に桜が見れてあの子も嬉しがってるわよね…」
「あぁ…そうだと、いいな」
そんな会話をしていた時
急に風が強くなり
近くに立っていた大きな桜の木が
音を鳴らし揺れた
その近くにはベンチがあった
何故か不思議とその木に引き寄せられる2人
その時、微かに声が聞こえたような気がして
驚いて顔を見合わせる
「今、何か聞こえなかった……?」
「あぁ…聞こえたぞ」
また風が吹く
『バイバイ…』
風の中に今度こそ確かに聞こえたその声
その瞬間、目の前の桜の木が
たくさんの花びらを散らす
隣の桜も
またその隣の桜も
そんなに散ってないのに
この桜だけ
不思議な散り方をした
まるで泣くように
涙のかわりに桜の花を落とす
「この…木なのかしら…あの子の支えになったのは」
そっと木に手を付ける
花が擦れあいザワザワと語りかける
「ありがとう」
母親はその言葉を選んで桜の木に送った
それ以上は語らず、夫婦は帰って行った
残された桜は桃色なのに
悲しみの色に包まれていた
あの子との約束は、もうおしまい
今、君は笑ってる?
頑張ったね
本当に頑張ったね
君はよく戦ったよ
病気だけじゃない
自分に対しても
僕に話してくれてありがとう
これで本当にサヨナラだ
僕の桜が
彼女と共に散っていく