すきなひと
Prologue
空には夕日が滲んでいた。
橙色の絵の具に、水を含ませて垂らしたように、じわじわと空は染まっていく。
なんて、こんなことを考えている私は、随分とあいつに影響されているなぁと漠然と思った。
私は、少し考えてから手に持っていたカメラをそちらへ向けた。
カシャ、カシャ。
お金を貯めて買ったカメラが音を立てる。撮った写真を確認して、私は誰にも気づかれないくらい、小さなため息をついた。
ありきたり、なんだよなぁ。
写真部に入って、毎日のようにカメラを触っているけど、これだ、と思える写真は未だに撮れたことがない。
──こんなんじゃ、
と、自分の中に浮かんだそれを、すぐにかき消した。
もっと、もっと。
こんな、どこにでもあるようなのじゃなくて。
そう、言うならば人の心を動かせるような、そんな写真。見た瞬間、ビビッ!てなる。みたいな。
私が初めてビビッ!を感じた時、背筋がゾクゾクして、ドキドキして、目が反らせなかった。
今でも思い出すだけで、宙に浮いているような気分になる。『感動』って、こういうことなんだ、って思った。
そんな写真が撮りたい。