冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
でもそれは、傷痕が残るかもしれないという不安ではなかった。

傷がよくなりこうして歩けるようになった今、シャルヴェさまが『サノワに帰れ』と言えば帰らなくてはならない。

彼は責任を取るとは言ったけれど、もしこの先愛する人を見つけ妃とするなら、私は邪魔だ。

バスチューは私のことを、『大変お気に召されている』なんて言い方をした。
でも、おそらくそれもここに私を置いておくための演技だろう。

それに、妃となる者にこんな傷はないほうがいい。


けれど、彼の優しさを知れば知るほど、ここを離れたくないという想いが強くなる。
私の心は、もうシャルヴェさまに奪われていた。


「不安とはなんだ?」

「いえ、なんでもございません」


いつ出ていけと言われるだろうかという不安でいっぱいなことは、彼には言えない。
< 167 / 348 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop