冷酷王太子はじゃじゃ馬な花嫁を手なずけたい
彼を欺き、ここにやって来た私に、そんなことを言う権利はない。


「リリアーヌ」


すると、シャルヴェさまは少し困った顔をして私の頬に触れる。
その触れ方があまりに優しくて、無性に泣きたくなった。


「お前の不安はすべて解消したい。なんでも言うがよい」


言えばずっと置いてくださるの? 
愛して、くださるの?

私はそんな言葉をぐっと呑みこみ、視線を逸らした。


「リリアーヌが元気がないのは困るのだ」

「困るのですか?」


私が元気かどうかが、シャルヴェさまに関係あるの?

聞き返すと、彼は複雑な顔をして「ふーっ」と息を吐き出す。


「どうして困るのか俺にもよくわからぬ。しかし、困るのだ」


シャルヴェさまが意味のわからないことを言いだすので首を傾げたものの、他の者の前で威厳を保っている人の言葉とは思えず、思わず口を押えて笑ってしまった。
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